Dear violin Students 私の大切な生徒たちへ

ヴァイオリンを学ぶ方々と分かち合いたいたくさんのこと

ヴァイオリンのサウンディングポイントについて考える:Vieuxtemps 36 etudes op.48 no.2

2020年の NAfME - National Honor Ensembles のオーディションの課題のひとつは

Vieuxtemps 36 etudes op.48 no. 2 ですね。

オーディション課題は途中からになっているので、そこから数えての小節番号を記してあります。

今回、少し問題になっていて、学ばなければならないことのひとつに サウンディングポイントを至急に変えること がありますね。

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Vieuxtemps op. 48 no. 3 Allegro moderato

12小節目です。

その前で、音が高くなるにつれて、クレッシェンド とあり、12小節目のダウンビートはスフォルツァートで、その後、再びフォルテに向かってクレッシェンドがみられます。

この場合は11小節目の方が音が高く、エネルギーが高いので、12小節目のスフォルツァートのあと、音も下がってくることを利用して、赤字で書き込んだようなディミニュエンドをすることで、その後のクレッシェンドを効果的に行うことができますね。また、12小節目、そして、13小節目をシークエンスと捕らえることは容易です。

さて、問題になっているのは、この赤で囲ってあるクレッシェンドが効果的にできない、ということです。

なぜだかわかりますか?

それは、そのクレッシェンドに与えられている時間がとても短く、そのうえ、使える弓の量も少ないからです。

時間をかけずに、すぐに大きくならなければならないタイプのクレッシェンドをしなければならない。そうするためには サウンディングポイントをすぐに変えなければなりません。つまり、弓をこの2つのストローク(ダウンとアップ)だけで、もっと詳しく言うと、この場合は、ダウンボウで弾くBとAはまだ音が下降中なので、実はまだディミニュエンドの途中。ですから、短いアップボウひと弓だけで、大きなクレッシェンドをする必要があり、弓を駒のほうに寄せなければならないのです。

ヴァイオリンの演奏においては、弓の圧力、スピード、そして、サウンディングポイントの3つの要素を掛け合わせることで、多種多様な音色をつくりだすことができるので、サウンディングポイントという概念を知ることはとても大切です。

サウンディングポイントとは? 

サウンディングポイント と コンタクトポイント

コンタクトポイントとは文字通り、駒と指板の間における、音を出す際の弓の毛と弦の接点。そして、サウンディングポイントとは、自分が求める音をだすための最良のコンタクトポイントです。

私たちは常に最良の音を追究しているのですから、そのような観点からみた場合には、サウンディングポイントとコンタクトポイントは同じである ともいえますね。

ただ、まだこの概念に対して、新しい場合、そして、まだヴァイオリンを初めてまもない場合には、それが一致しないこともよくあることです。

今日のところは、とりあえず、サウンディングポイント という言葉を選んで先に進みますね。

5つのサウンディングポイント

カール・フレッシュによると (according to Prof.. Julia Bushkova at University of North Texas College of Music) サウンディングポイントは5つのセクションに分けられます。

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sounding point on the violin

Fホールの丸い穴をつなげたちょうど駒と指板のちょうど中間点あたり、はじめてヴァイオリンを勉強し始めた頃に、いい音がでるのはここなので、常にこのあたりに弓をおきましょう、と教わるところを3番と呼ぶことにしましょう。

次に、指板のすぐ手前のところを5番、駒のすぐとなり、sul ponticello (スル ポンティチェロ=駒の上、もしくはすぐ隣を弾くことで、ノイズの混じったような音をだす奏法)にならずに、きちんとよい音が出せるところを1番とします。

このように設定すると、1番と3番の中間を2番、3番と5番の中間を4番とすることができます。

このようにサウンディングポイントは、少なくとも、だいたい5箇所に分けることができます。もちろん、1番と2番の間、2番と3番の間 などがあってもいいわけですから、もっと細かく分けることもできますし、必ず3番に弓をおかないと! 必ず1番に弓をおかないと! というわけでもありません。これはサウンディングポイントについて考え、理解するための、単なるガイドですので、それも覚えておいてくださいね。

例えば、ダウンボウ全弓をつかって、ディミニュエンドをする場合、弓元を1番あたりにおくことからはじまり、弾いている間に、サウンディングポイントを1番、2番、3番、4番、5番というように、指板のほうへむかって滑らせるようにすると、ディミニュエンドをより効果的に行うことができます。また、音色も力強いものからすぐ隣の人に語りかけるような音色に変わります。

アップボウ全休をつかって、クレッシェンドする場合には、弓先をたとえば4番あたりにおくことからはじまり、弾いている間に、サウンディングポイントを3番、2番、1番と移動させることで、効果的にクレッシェンドすることができます。また、音色もすぐ隣の人に語りかけるようなものから、力強いものへと変えることができます。

一般的にGストリングのサウンディングポイントは指板寄り、Eストリングのそれは駒寄り、振動させられる弦が短ければ駒寄り、長ければ指板寄りになります。

 

サウンディングポイントを変える際の弓の動き

基本的には弓は常に駒と平行にあるべきですが、サウンディングポイントを変化させるために弓を移動させる際には、ダウンボウでは向こう側にむかって、アップボウの際には、自分の方へ寄せるようなイメージで、円を描くような動かし方をします。弓をそのようなイメージで動かすことで、駒と指板の間をスムーズに行ったり来たりすることができるのです。

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sounding point and the bow motion

そう。ダウンボウとアップボウは、単純な水平の動きだけではなく、実は円のイメージでつながっているのです。

上手にコントロールしながら、円を描くように動かすと、弓が自然とついてきて、サウンディングポイントが変わる、という風にもいえます。

 

サウンディングポイントに変化をつける具体例

Vieuxtemps op.48 no.2  12小節目

さて、Vieuxtemps に戻りましょう。

先ほども述べたように、12小節目の最後の4つの16分音符はB,A,A,E。B,Aは下降であることから、A,Eを弾く際の短いアップボウひとつで聴衆に届く、はっきりとしたクレッシェンドをしなければなりません。このセクションは Allegro moderato です。後からでてくる Tempo I の重音でうたう部分とははっきりとした対照性をもたせるためにも、あまりゆっくり演奏することはできません。

テンポが速ければ、その分、その瞬間に与えられている時間は短く、使える弓の量も限られてきますので、サウンディングポイントをかえるにも、たとえば、3番から4番へ という程度ですが、そうすることで大きな効果を得ることができます。

サウンディングポイントについて、考え、理解するための基本的な練習は今回は省きますが、この部分で効果的なクレッシェンドをこのセクションにあった性格を維持しながら演奏するための練習方法を記しましょう。

練習方法

1.自分の弓が12小節目の最後の2つのストロークを弾く際に、弓のどのあたりをどのくらい、どのサウンディングポイントで弾いているのかを確認します。

a. 弓のどのあたりを使っていますか? 

たぶん、上半弓、少し真ん中に近いあたりではないですか?

b. 弓をどのくらい使っていますか?

今のところ四分音符=70くらいで弾いていますから、10センチから20センチの間くらいかしら? 計測する必要はないですが、目分量でどのくらか観察してください。使える弓の量はその人の弓を速く動かせる能力に応じて、変わってきますね。

c. サウンディングポイントはどこですか?

たぶん、3番のあたりにいると思います。

 

2.まずオープンストリングを使って、少しゆっくり何度か弓の動きを確認しながら、サウンディングポイントに変化をつける練習をしましょう。

先ほど確認した3つのことをあまり変えずに、(でも、もちろん、ゆっくりする分、弓の量は多くなりますね)音量などをあまり気にせずに、ダウンボウでは弓を向こう側へ少し押し出すような感じで、弧を描くように押し出します。そして、アップボウでは自分のほうへ引き寄せるように弧を描くように、弓を動かします。サウンディングポイントは変わっていますか?

 

3.サウンディングポイント4番から3番、3番から2番、そして、4番から2番 という風に「どのくらいの幅で」サウンディングポイントに変化をつけられるのか試してみましょう。

 

3.慣れてきたら、ダイナミクスも少し意識します。

これまでの動きに、今度は弓量の変化も加えます。

ダウンボウでは少しディミニュエンド(もしくは単純に音量を少し少なく)をイメージしながら、弓を向こう側へ少し押し出すような感じで、弓量は少なく、弧を描くように押し出します。そして、アップボウではクレッシェンド(もしくは単純に音量を大きく)をイメージしながら、弓量を多くし、自分のほうへ引き寄せるように弧を描き、弓を動かします。

私の場合ですと4番から1番に近いところくらいまで、与えられている時間内でサウンディングポイントを変えることができます。

 

 4.そして、最後に左手をいれてみましょう。

なんとなくまだ違和感があるようでしたら、またゆっくりからはじめるのがいいですね。

  

今日のレッスンは盛りだくさんになりましたね。(笑) 

 

サウンディングポイントはとても大切な概念です。けれども、ひとつそれと同様に忘れてはならないことがあります。大切なのは、12小節目の最後のふたつの音は13小節目のダウンビートに向かっていくエネルギーがあるということです。この音楽のもつエネルギーをしっかりと感じ、それを運ぼうと意識することで、サウンディングポイントを変える動きもときについてきてくれます。つまり、テクニックは音楽への理解とそれを表現したいという気持ちについてくるのです。1週間は焦らずに、練習をして、また来週聴かせてください。そして、またそこからどのようにしていけばいいのかを一緒に考えましょう。

 

このテクニックは Bach Sonata no. 3 for solo violin Largo 冒頭4つの音をマニュスクリプト通りに演奏したい場合、つまり4つの音に与えられる弓順は ダウン、アップ、アップ、ダウン:

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bach largo beginning

そして、たしかGavinieのエチュードにもあったと思ったのですが、忘れました。(笑)