Dear violin Students 私の大切な生徒たちへ

ヴァイオリンを学ぶ方々と分かち合いたいたくさんのこと

ヴァイオリンの先生である私が考える「才能」とは?

先週、「先生、お元気ですか?」とタイトルした記事で、過去に教えていた生徒が、他国に行ってもがんばっていて、自分が希望する大学のヴァイオリン専攻の学生として受け入れてもらうことができました。という報告のメールをいただいた旨を綴りました。

dearstudents.hatenablog.com

そのなかで、その生徒についてその頃から才能にあふれている感じがあった」という形容を使ったのですが、とてもありがたいことに以下のような質問をいただきました:

 

「才能に溢れている」って、どういうところで感じるものなのでしょうか?

 

これはとてもすばらしい質問で、かつ、大切なことだとなので、今日は、この「才能」について考えてみようと思います。 

 

実は、ご指摘をいただいた部分を書いているときに、私自身「この表現を使ってしまっていいのだろうか?」という小さな躊躇がありました。音楽、ヴァイオリンだけでなく、いろいろな分野において「才能」という言葉で片付けられてしまうことがよくあることを、私自身はあまりよく思っていないからです。

 

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才能とは

私自身の言葉で表現すると、種を落としたときに、その種が大きく健やかに育つ土壌をもっているかどうか ということかしらと思います。

ただ、土壌をもっていたとしても、雨風の影響を受け、育たない場合もありますし、それほど土壌がよくなくても、手入れをきちんとすることで、うまく育ち、すばらしい実がなる場合もあります。

土壌もよく、環境もよいけれど、手入れをしたくない場合もありますし、

土壌は悪いけれど、環境がよく、手入れもよい という場合もあるでしょう。

つまり、さまざまな要因により、育ち具合、育ち方が変わってくるということです。

 

 私の生徒に見られた才能のかたち

私の教えていた生徒に関して、具体的に挙げると以下のようになります。

 

 1.ヴァイオリンが大好き

 

彼女はヴァイオリンを弾くことがとても好きでした。それは、彼女自身も言葉にし、また、演奏する様子にもあふれだしているものでした。

 

2.ヴァイオリンへのアプローチが自然である

 

生徒のなかには、楽器を構えたり指を動かすだけでも必要以上にエネルギーを使うものもいます。まだ間もない場合は、とりあえず質はおいておくにしても、ヴァイオリンという楽器、そして弓を、あまり無理なく、わりに自然に扱うことができるということは、上を目指すうえでは大切です。

 

3.リズム感がある

 

私のであった生徒のなかで、とても残念ながらリズムを感じられる能力がとても弱い子供がいました。スキップをすることも難しく、手をたたくにしても反応がとてもおそくなってしまう。クラシック音楽ではそこまで複雑なリズムはでてきませんが、そのリズムをある程度感じることができ、そして、ヴァイオリンを通してあらわすことができる、のはひとつの能力だと思います。もちろん、訓練でよりよくすることも可能です。

 

4.積極的にアウトプットができる

 

私のレッスンでは、基本的に、生徒が演奏をし、それについて、ときに自己分析をしてもらい、その後、私の考える演奏のよかったところ、その根拠、そして、改善するべき点とその根拠、そして、それらに対する問題解決方法(=練習方法)の提示 というかたちをとるのですが、彼女は、私の与えるインプットを理解し、自宅で実験、練習を重ね、自分でどのくらいまで理解できたのか、自分のものにすることができたのか ということを 次のレッスン(ときにもう少し後になることもありましたが)でアウトプットして見せてくれていました。

 

5.1つの課題にかかる時間が短い(ひとつの曲を仕上げるまでの時間が短い)

 

以前にも少し触れましたが、大切なレパートリーになればなるほど、1度勉強しただけでは最終結論に到達することはできません。さまざまな演奏形態、たくさんの曲や練習曲に触れることにより、見えてくるものもあるため、生徒のレベルに応じて、そのときのゴールを定めます。彼女はできることが多かったため、仕上げのレベルも高く設定していましたが、それでも、割りに短時間で次の課題に移ることができていました。

 

6.ひとつの課題に対して、高いゴールで仕上げることができる

 

前出ですが、音程にしても、リズムにしても、音楽表現にしても、少しずつ自分のリミットをはずしていくように質を高めていくのですが、たとえば、音程が基本的には問題なくとれていれば、それをより楽器を鳴らすための音程としてとらえるように導いたり、曲のキャラクターによって、ヴァイオリンの特徴をいかして半音をより狭くとる など、少しゴールを高く設定して導くことができていました。

 

7.暗譜が苦にならない、自然に暗譜をすることができる

 

生徒によっては、暗譜をすることが苦手で、私が計画(スケジュール)を組み、発表会や試験までに暗譜をできるようにしますが、この生徒に限らず、いいものをもっている と思える生徒は、とても自然に暗譜をすることができ、その点が問題になることはありません。

 

8.コーディネーションの問題がない

 

生徒によっては、左手と右手のタイミングがあわない という問題を抱えるものもいますが、彼女の場合は、それがほとんどなく、もし出てきたとしても、私の提案するエクササイズ(練習方法)ですぐに解決することができていました。

 

9.左手にほどよい強さがあり、どの指でも均一な音をだすことができる

 

生徒によっては、3指や4指がほかの指に比べて極端に弱く、音色が変わってしまうケースもあります。ヴァイオリンの演奏は決して「力」「強さ」だけの問題ではないので、指をどのように使うのか ということをケースバイケースで見つけていきますし、エクササイズを通して、改善できることも多々ありますが、彼女の場合にはそのような心配をする必要がありませんでした。

 

10.音程や音色に関して、聞き分けられる耳をもっている

 

例えば、音程に関しては、最初は誰でも、標的の的の部分が大きいものです。それを訓練を重ねることで、だんだんと小さくしていき、ピンポイントに近いところまでもっていきます。また、ヴァイオリンでの音程は、ピアノのそれとは違いますし、曲のキャラクターや調性により、低くとったり、高くとったり、表現の一部として音程をコントロールしたりもするので、微妙な違いを聴きわけられる能力を育てる必要がありますが、彼女はその訓練にきちんとついてこられる能力がありました。

 

11.楽譜を読むことに対して、積極的になれる

 

私は最初の段階から、楽譜を読む ということをとても重要視します。演奏の準備はそこから始まるからです。どの生徒に対しても、音源を頼ることなく、まずは楽譜に何が書いているのかを理解し、音にする という作業をしてもらうのですが、私たちはゲーム感覚で、いろいろな楽譜に触れ、楽しみながら、楽譜を読む作業ができていました。(音楽表現の勉強の段階にくると、どんどんいろいろな音源を聴いてもらいます)そして、彼女はそのことについてもとてもオープンでした。

 

12.練習時間を確保し、結果を導き出す練習をすることができる

 

練習方法に関しては、レッスン中に伝えますが、彼女はそれを実践して、結果をもたらすという中身のある練習をすることができていました。学校が忙しくても、その作業をするための時間(練習時間)を確保し、努力を重ねていました。

 

13.楽譜の音符を弾くだけではなく、表現を加えることができる

 

私の生徒のひとりで、とてもいいヴァイオリン奏者がいます。速いパッセージも上手に弾くことができ、音程も割りに正確です。基本的には大きな問題はありません。けれども、フレーズを表現したり、音色を変えたりすることができません。というより、したくないのです。なぜなら「だって、そんなことをしたら、弾けなくなっちゃうもん」(笑)彼女に関していえば、このようなことはなく、表現することにも積極的でした。

 

14.緊張はするけれど、人前で演奏することが好きで、

          機会があれば積極的に出て行くことができる。

 

聴衆と演奏をとおしてコミュニケーションをとるのも音楽の演奏のひとつの側面です。自分が学んだことを発表する機会に対して、積極的になれるのはよいことです。緊張は、私自身はある程度したほうがいいと考えています。そのような緊張感も演奏の一部だからです。過度にあがってしまい、手足が震えたりして、その緊張があまりにもはっきりと聴衆にも伝わってしまう場合には、対処が必要ですが。

 

15.音楽的なアイディアを自ら提案することができ、

                  そうすることを恥ずかしがらない。

 

私の指導方法はわりにシステマティックなので、情報が整理されながら、きちんと蓄積されていくケースが多いです。音楽的な表現に対してのアイディアは決してひとつではない場合が多いので、生徒によっては、ある程度のところまでくると、蓄積されてきたものをもとに、アイディアをだすことが可能になってきます。彼女の場合は、たぶん、いろいろな演奏も聴いて参考にしていたと思いますが、ときに、こう弾きたい というアイディアをもってきて、演奏を通してみせてくれていました。先生に意見されることを怖れずに、とりあえず自分が考えるところを提示できるのは、私はすばらしいことだと思います。 

 

16.学びたいという気持ちが強く、いろいろな提案に対して、オープンであり

                その提案を積極的に試してみることができる

 

私の提案に対して、いつもとても素直に積極的にとらえてくれていました。私自身もそうだったのですが、ときに、音楽表現において、先生のおっしゃることを充分に理解できるだけの器が育っておらず、その表現を充分に形にせず、躊躇してしまうことがありました。彼女は、きちんと理解できていないにしても、とりあえず、その表現をしてみることができていて、きっと、その後、それがなぜいい表現とされるのか、ということを理解してくれるときがくると感じられる印象を与えてくれました。

 

17.演奏中のアクシデントに対して、自然に対処することができる

 

演奏中になにか問題が起こっても、すぐに対処し、長くひきずらずに回復できる というのもひとつの能力です。

 

18.努力をすることができ、それに対して、そこまで苦痛に感じていない。

 

彼女は、ほかの生徒たちに比べて、前出のようなよい特性がありましたが、これは、努力の支えがあってこそ光り始めた部分もあると思います。一見、あまり努力をせずにさらりと弾いているようにみえますが、やはりそれなりの時間をかけ、練習という努力を重ねていました。練習は大変なときもありますが、努力をし、できるようになるよろこびを一緒に分かち合うことができていました。

 

19.ヴァイオリンを続けることができる 

     それを応援してくれる人が周囲にいる(引き寄せることができる)。

 

人生にはいろいろな節目があり、ときに、辞める という選択肢が浮かんでくることがあります。彼女はそれほど余裕のあるご家庭ではなかったですし、ご両親が生まれ育った国に帰るという決断をしたとき、まだとても若いながらも、節目 に遭遇しました。けれども、彼女の場合は、ご両親さまも、彼女の音楽、ヴァイオリンの能力がよく育っていることを感じていましたし、私自身も、そして、音楽学校のDirectorも、彼女がヴァイオリンを続けたほうがよい と考え、その旨をお伝えしたりしたものです。

 

20.感覚だけでなく、きちんとした論理も導入することができる

 

私は大学時代、学問として音楽に触れていたので、音楽を単に感覚的なものとは捉えていません。もちろん、感覚的、本能的にアプローチする部分もありますが、ヴァイオリンを通して音をだすのは、物理的に説明することもできますし、音楽的な表現に関しては、音楽分析により説明できる部分もあります。そのため、私はある年齢に到達した生徒たちとは、言葉を介して、論理的なアプローチもとります。彼女は、頭も使うことができ、感覚的な部分、論理的な部分、両方をよいバランスで学び、両方を使ってアウトプットができるようになっていたと思います。

 

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 もう4年以上も前のことですが、彼女のことを思い出して、なるべく具体的な形になるように書いてみました。(もちろん、具体的になっていない部分もありますが (^^;)

 

とりとめもないリストになってしまいましたが、このように彼女には、ヴァイオリンを勉強するうえで、ヴァイオリンで音楽を演奏するうえで、利点となり得るものをたくさんもっており、何よりも、彼女からでてくる音楽がいつも生き生きとしていて、よいエネルギーをもって、あふれてくる 印象がありました。そして、それが、そのときだけではなく、継続され、よりよいかたちとなって、変化し続けていました。そのような様子が、私に「才能にあふれている」という言葉を使わせることになりました。

 

説明不足な点、わかりにくい点、重複に近い部分もあるかと思いますので、

また、ご質問、ご意見などありましたら、どんどんお寄せくださいね!

すばらしい質問をどうもありがとうございました!!