Dear violin Students 私の大切な生徒たちへ

ヴァイオリンを学ぶ方々と分かち合いたいたくさんのこと

パガニーニ カプリス 24番 ヴァリエーション 5 

今日はご質問をいただいたので、おこたえしたいと思います。

 

「最近ブログを読んで、勉強させていただいております。 録音の音色がとても美しくて聞き惚れています。 突然で申し訳ないのですが、今パガニーニ24番のバージョン5が上手く弾けずに行き詰まっています。。 個人的には移弦が上手くいっていないと思っています。」

 

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paganini caprice 24 var.5


まず、私にこのようなかたちで声をかけてくださり、また、私の録音の音に対して好意的に感じてくださったこと、とてもうれしいです。

私の楽器もマイクも、プロフェッショナルの世界の方々を考えると、及ばない感満載ですし(笑)、録音もいろいろとありますが(笑)生徒たちが勉強する参考にはなるかなと思い、続けています。。。ありがとうございます!

パガニーニのカプリース24番に挑戦されていること、とてもすばらしいですね!!

 

  

今後の課題

まず、動画を拝見して、とてもよく弾けていると思いました。高い音をとるときにきちんと左手を準備してから弾かれているのもいいことだと思います。

よりよいものを探るためのきっかけになれば、という気持ちから、再確認してもよい点をあげてみますね。

身体の使い方

腕の動きは全く見えないので、もしかしたら、右手上腕、肩、手首などに多少かたさがあるかもしれません。身体の使い方を考えると、右手、左手、身体の使い方において、無駄な動きを極力無くすこと、効率よく身体を使い、効率のよい演奏方法をすることはとくにこのような曲に関してはとても大切です。

移弦

ご自身で移弦が気になるようなので、そのことに触れますね。動画を拝見する限り、移弦そのものに関して大きな問題があるようにはみえませんでしたが、このような速い移弦の際には、となりの弦になるべく近く(重音を弾く感覚に限りなく近く)弓の角度を保つことも大切ですね。(ただ、実は16分音符を演奏するときの弓の使い方は、一歩踏み込んで説明させていただきたい気持ちがあります。)

弓のコントロール

動画から見聴きするに弓圧のコントロールはとくに必要だと思います。また、どのストロークに関しても、ストロークをはじめる前に、きちんとした準備ができているかどうか、どれくらいのスピードで、どれくらいの弓圧で、弓のどの場所で、どれくらいの弓幅を使いたいのか、などが、頭でも身体でもしっかり理解できているかどうか、再確認することは大切です。弓の使い方について一度詳細にわたって 頭も使って 整理してみること、そして、その選択が単に 便利のため ではなく、できれば、フレーズづくりと音色への選択などの音楽性に結びついていることが望ましいですね。

美しい音・クリーンな演奏

本番は秋とのことなので、左手を安定させる音程の練習は必ず重ねながら、強弱に関わらず、楽器がだせる一番よい音(美しい音)をできる限り保ちながら、クリーンな音や演奏をめざしたいですね。

 

せっかく一所懸命練習されているので、以下にもう少し詳しく触れていきますね。

もしかしたら、おもしろい、と感じられ、演奏スタイルまで、がらっと!!!!変わってしまうかもしれませんし、逆に、え~っ!!今さら~?! え~ッ!!そんなこと興味ない~!!と思われるかもしれません。(笑)

 

弓使いについて

たぶん、冒頭に抜粋部分を載せたカール・フレッシュの版を使われているのかしら、と思います。この版では、アップボウから始めることが推奨されていますが、私はダウンボウからはじめます。アップからはじめる人も、ダウンから始める人もいて、どちらも可能です。

 

私がアップボウからはじめることを選択しない理由

私個人の観点からいうと、アップボウから始めると、とくに、8分音符の最後に弓を必要以上に高くリフト(弦から弓が遠く離れる)しがちになり、16分音符への入りが、弓を高いところから落とすような感じになり、そのうえ、たくさん弓を使うと、一番最初に弦に着地するのが、弓のフロッグのあたりという重たい部分に’なるため、コントロールしきれず、音が必要以上に荒くなりやすくなります。(少しこころあたりがありませんか?(笑))

 

もし、ダウンボウからはじめるとすると、コントロールしやすくなり、弓が弦から不用に離れることが避けられますし、弓の上半分のあたりだけで演奏することも、下半弓あたりだけで演奏することも、そして、よりたくさん弓を使う演奏も可能になる、つまり、表現の選択肢が広がると思います。

もし、ダウンボウではじめる場合は、その際の弓の使い方のコツもあるので、ご興味があったら、またお話ししましょう。 

 

演奏のスタイルについて考える

パガニーニは弓の元のほうをほとんど使わなかった という文献がある、と私の先生から伺ったことがあります。また、これは私自身の感覚ですが、パガニーニのカプリスは基本的にコンパクトなアプローチのほうがあっているように感じています。

私はパガニーニの研究家でもなんでもないのですが、Henle版 の Annotations on Interpretation において Barbieri氏は以下のように

Variation 4 must be played with consummate technical precision and a gentle tone; the same applies to Variation 5 with its dialogue between the legato sixteenths and the eighth-notes on the G string

ヴァリエーション4へのアプローチと同様、ヴァリエーション5も  gentle tone  で演奏することを推奨しており、とくに16分音符には p を書かれています。 

 

ただ、この曲はパガニーニによるもの。モーツアルトやベートーベンで許されない「ルール破り」が可能な世界だと思うので、ご自身の感じるままに まずはぐいぐい表現してみましょう。(笑) 小回りの利く軽自動車でパリや東京の街を走り回るのか、ロールスロイスのようなラグジェリーカーで、アメリカの広大な土地(というのはなんだか似使わないけれど)をゆったりと走るのか。(笑)

 

全体のなかでのヴァリエーション5の位置づけを考える 

カプリース24番は テーマ、10のヴァリエーション、そして、フィナーレと12のセクションから成ります。ヴァリエーションひとつひとつの性格があるので、全体のなかでのヴァリエーション5の位置づけを考えることもひとつ頭の片隅においておくといいと思います。

 

フレーズについて考えよう

フレーズをかたちづくることは、何を演奏するにおいてもとても大切なことですが、このヴァリエーションをどのようにかたちづくりたいですか?

最初は1回目がフォルテ、2回目がピアノ という意図が感じられますが、そのあとはどう弾きたいですか? ヴァリエーションの最後は小さく終わりたいようですが、リビーとサインのあと、5小節目から11小節目まではどう弾きたいですか?

たとえば:

 

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最初の2小節:

1.2小節 forte、2小節 p

2.2小節クレッシェンド、2小節dim. 

3.上の1.2の両方をする

リピートサインのあと:

1.4小節のdim. 4小節のcresc.

2、2小節のdim. 再び大きくはじまって2小節のdim.、再び大きくはじまって4小節のdim.

3.4小節のdim. 4小節のcresc.

4。4小節のdim. 3小節のcresc. 最後だけdim.

などなど、譜例の書き込みが多すぎてわかりにくくなってしまいましたが(笑)、いくつかの可能性があります。フレーズのつくりかたによって、弓をいつ、どのくらい、弓のどの部分をつかって、どのくらいの弓圧で使うのか、が変わってきます。

もうすでに譜読みはすっかり終わっていますから、どのようにフレーズをつくりたいのか、そして、それを表現するには弓をどう使えばよいのか、を考えてみるといいですね。

そして、その方向に進んでみて、いや、やっぱり違う!と思えば、また別の可能性をさぐればよい、です。

フレーズをみつけるには、うたうことが一番です。

ただ、私自身、最初のうちはそれができずに、たくさんの曲をつかって、フレーズをみつけ、かたちづくる練習を重ねて、わかるようになってきました。

このセクションの場合、八分音符をうたってみるだけでも、フレーズがどこに向かっていくのか、という感覚がつかみやすいと思います。 

パガニーニのカプリースの場合、技術的にとても難しいので、弾くことばかりに気持ちがいき、音楽を表現するということが後回しになってしまうのはある程度仕方がないという面もありますが (自分自身が勉強していたときにそうだったからです。。。)、一度は考えてみる価値はあると思います。

 

クリーンな演奏・美しい音をめざそう

課題のひとつとして クリーンな演奏 という言葉を使いましたが、音を出す際の姿勢として、どのような音をだしたいのか、ということを決定したうえで、演奏中に音をだしながら つくる のではなく、ストロークの最初にその音を出し、それを保つように努めるという姿勢が大切です。これはどんなに短い音に関してもそうです。

具体的な提案もできますが、前出のとおり、弓使いや bow distribution (弓のどこで、どれくらい、どのように使うのか)はフレーズのかたちをどうつくるのか)によって変わってくるので、まずはその点を再考していただいてから、よかったらまた一緒に考えましょう。

また、何を演奏するにも、自分の楽器がだせる一番良い音、一番美しい音で演奏できるように努力を重ねることはとても大切です。良い音というのは、弦の振動がきちんと楽器に伝わっていて、楽器がきちんと鳴っている状態です。これはどんなに小さな音でも、どんなに重厚な音でも、です。ヴァイオリンは小さな楽器で、速くたくさんの音を演奏することが可能とされているので、私たちはいつでもたくさんの音を弾かなければなりませんし、そのすべての音をよい音で弾くことはとても至難の業ですが、(パガニーニのカプリスは左手も右手も大変なので、そのうえによい音もだすなんて、過酷です!!!!!) ヴァイオリンを選んでしまった以上、仕方がないので、「すべての音を美しい音で」をこころに、「自分は今、よい音、美しい音をだしているだろうか?」を常に自分に問いながら練習しましょう。

 

Happy Practicing!